みちみちのこみち

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雲に根を張る植物の話。

雲に根を張る植物の話。

 ぶらりと垂れ下がったミノムシのようなものが飛行機の窓から見えていた。あれは何だろうかと窓から目を凝らして眺めていてもそのうちに雲に入ってしまったため何も見えなくなってしまう。けれども雲の上に出てあっと驚いたのは、雲の上にも見たことのない植物のようなものがふわふわと浮いていたことだった。輪郭だけで構築されたそれは、雲の上に浮いているワイヤーアートのようでもある。児童向けファンタジーに登場するような幻想的な空の世界に似ている。パイナップルのように鋭くとがった葉が重なり合って、その中央に大きな花が咲いていた。
「お母さん! 双眼鏡!」
「トランクに入れて預けちゃったねぇ」
「ええー! だってほら!」
 指さすとそこにはもう何もなかった。まるで幻想そのものであったように、雲上にはただただ真っ白な世界が続いているのだ。
 雲の上に出現し、さらに生息する範囲が狭いため飛行機の窓から覗いている程度ではあっという間に見えなくなってしまうため、長い間この植物の実態が分からなかったのだが、最近の研究でこの植物がどうやら雲に根を張る植物であることが判明した。
 雲は水蒸気で出来ているが、この植物は通常空中を浮遊して生活している。ただ空はやはり水が少ないため、雲に行き当たるとこの植物は雲の合間に根を張って、水分を吸い取りながら成長していくのだ。
 雲が流れるままに、わずか一日の内に根を張る。種の中にはさらに小さな種を内包しており、これらは水を吸うことで大きく膨らんではじけ飛ぶ、そうしてまた長い間空を漂う生活を送っている。風に飛ばされるほど軽く、雲に流されるようにぶら下がっている分にはさほど問題ないのだが、実はこれが飛行機の航路に入ってしまうと大問題を起こすことがある。機体にぶつかったところでさほど大きな問題を起こさない程度に小さなものだが、それがエンジンに入り込んでしまい大事故を引き起こしそうになった事例が過去にも何件か存在している。
 雲を超えるほどの上空でこれらの植物を採取することが難しく、さらに地上では育成ができないことから研究はほとんど進んでいない。早いところ人間も雲の上で生活できるようになるといいのだが、その日はまだ先のことになるかもしれなかった。

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#一種異様生物
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